「アプローチされてた時期がある気もするなぁ…監督が僕をからかうのは、そんな事に気付かないかららしいけどね」


「恋愛音痴？」


「そうなのかもね…」


「何でも出来るヒトだと思ってた――」


「安心した？それにさ、誰かと比べるなんてしないから。今聞かれて良かった、エリナとは当分付き合わないといけないから」


「前にもめてたCM？」


「それもあるけど…加奈子ちゃんにも会って貰わないと。彼女が主演だしね」


「決まったんだ。彼女に…」


「そう、我がままなお嬢様だけどプロだよ」


「聞いておいて良かった。一人で悶々とするところだったかも」


佐久間の手は私の髪を撫で続けている。思いがけない幸福な時間だった。


「ところで、朝まで此処に居ても良いのかな？僕は少しゆっくりだけど…」


「狭くて良ければ…一緒が良い」


素直にそう答えた。佐久間は私を引き寄せて頭を包み込む。


眠ろう、と頭の上で声が響き優しく頭を撫でられると気づかないうちに眠りに堕ちていた。