私と彼と――恋愛小説。

ゆっくりとした間が流れる。手は繋がれたままだ。戸惑う佐久間が可笑しくて、それでもその姿を見ているのは愉しかった。


「もしかしてさ、からかってたりする?」


「そんな事ないよ。意地悪してるだけ…」


「酷いなぁ。それ…愉しいの?」


「そうね…とっても愉しいわよ。いろんな顔が見られるもの」


「意外にサディスティックなのかな?」


「仕返ししてるだけかも、初めて会ってから振り回されてたから」


少しだけ佐久間は困惑した表情を浮かべた。何かを話そうとしている気がした。今は何も聞きたくない。


「話さなくて良いわよ。貴方が言いたくなるまで聞かない事にする」


「優しいんだ…」


「どうかな?それも意地悪かもよ」


佐久間の指が私の指から離れてゆく。広い通りのわきに車が止まる。


肩に滑り込んだ手が私を引き寄せた。端正な佐久間の顔が近づいて唇が触れた。