私と彼と――恋愛小説。

佐久間が車から降りるのが見える。珍しくスーツ姿だった、車に背中をあずけ寒そうにしていた。


呼吸を整え玄関へ向かう。謎は多い、まだ彼の事は何も知らない。


でも…どうやら私は彼が好きなのだと、確信した。気持ちが定まれば心も落ち着きを取り戻す。


「お待たせしました…」


不自然にならない様に笑顔で佐久間に声を掛けた。何故だか佐久間は困った表情を浮かべていた。


「どうしました？」


「あー何だかね…我ながら格好悪いなって。電話があったからって急に無理やり会いに来たりってさ」


途轍もなく器用な男だと思っていた。あれだけ人を感激させる小説をあっさり書き上げ、世間に認められる仕事をこなす。


その男がこれだけの事で、自分の事を恥じている。


可愛い過ぎる…私は込み上げる笑いを隠す様に、佐久間の横で腕を絡ませた。


「行きましょうよ。来てくれて…ありがとう」