私と彼と――恋愛小説。

「えっと…今からって事ですよね?」


「あっと、ごめん。焦りすぎだなぁ」


もう化粧も落とした。汚れているわけじゃないけれど雑然とした部屋を見渡す。


これでは、部屋に上げることも出来ないなどと余計な事まで考えた。


「いえ、そんな事は…」


「本当に?あのさ、実は仕事の帰りでそこまで二十分ぐらいの場所なんだ。何処かでお茶だけってダメかな?」


もう一度着替えて、メイクをする。結構ギリギリの時間だった。


「大丈夫です…」


電話を切り慌てて考える。何を着ようか?まさか脱いだばかりのスーツは無い。着飾るのはもっと変だ。


そもそも時間がなさすぎる。もう良い…こんな事で悩んでも仕方ない。ラフなパンツにニットのセーターお洒落とは言い難い格好だった。


素っぴんは避けたい。急いで眉を描きリップだけ塗りなおす。


一通りの支度を終えてマンションのベランダから下を覗くと、黄色くクルマのハザードが点滅していた。