私と彼と――恋愛小説。

「確かに…まあ格好良い誘い方じゃないよね。どうも苦手だなぁ…こう云うの」


らしくない…この男が私を誘うのに心底照れて此方に視線すら向けてこない。


「仕方ない。お付き合いしましょうかねぇ」


佐久間はちらりとだけ私を見て、車内に繋がる携帯電話を操作した。相手はジュンさんで、いつも通りの声が響いた。


「ジュンちゃん…悪いけど、午後オフにしても良いかな？ちょっと――」


「加奈子ちゃんとデートでもするなら良いわよー」


「まあ――何と無くそんな感じ」


「へぇーそれはもちろんオッケよ。振り回した分ちゃんとしなさいよ」


車の中は暖かく眠気が押し寄せる。あくびをする私を見て佐久間が笑う。


「寝不足？」


まさか佐久間の書いたサイトの小説を読みふけっていたとは言えない。


「ええ…少しだけ」


「まだしばらくかかるから寝てたら？」


「そんな失礼な事出来ませんよ…」


そう答えたものの、気がつけば眠り込んでしまったみたいで肩を軽く揺する感触で目が覚める。


「着いたよ。お嬢様」


「ごめんなさい…寝ちゃいましたね」


「気持ち良さそうだったけどね。とりあえず挨拶だけ行こう」