私と彼と――恋愛小説。

「急ですまなかったね。早めに片付けた方が加奈子ちゃんも本業に戻れると思って…」


「それは確かにそうですけど…」


一通り事が済んでしまえば振り回される事も無くなる。私にすれば本来嬉しいだけの筈なのだ。


そうすれば――佐久間とこうして二人になる事も無くなる。複雑な――心境だ。


「えっと順調なんですよね。全部予定の通りですか?」


佐久間の運転は予想以上に滑らかで心地よい。


「いや、中々そうも行かないよ。制作も配給元も随分交渉したもんねぇ。まあ、世の中のしがらみってのは難しいもんだよ」


そんな事を言いながらも楽しそうに見える。


「でも、楽しそうですよね」


ついそんな風に呟いていた。佐久間はちらりと私を見て微笑む。


穏やかな笑顔だった。今日の佐久間は何処か違う。


「そうだね。漸く形になると思うと…楽しいかな」


「ああ、それはわかります。佐久間さん程じゃないですけど、私も雑誌作ってますからね」


「何も無いところから始まって、あれやこれや考えて形にする。最後は一瞬なんだけどね…」