私と彼と――恋愛小説。

気が付けば冒頭から更新分まで一気に読み返していた。


「なにしてんだろ…私。寝ないとダメなのに」


無理やりベッドに潜り込んだのは朝方で、それでも眠れない頭は妄想を始める。


もしかして…小説の中の若い男は佐久間で、やり手の経営者はジュンさんなのか？


じゃあ――主人公の女は誰なのだ？


そんな風に考えてしまう自分が馬鹿らしくなる。例えばこれが彼らをモデルの物語だとしても、それは私には関係すら無い。


嫉妬？小説の主人公に？小説に取り込まれているのだろうか？


真夜中に小説など読むものじゃない。可笑しくて笑いが込み上げた。


「もう！何よこのクマ！忙しくても睡眠とビタミン摂りなさいって言ってるでしょ！」


ジュンさんが鏡越しに恐い顔で怒っている。


「ごめんなさい…ちょっと寝不足です…」


まさか、佐久間とジュンさんの事を考えていて寝ていないとは言えない。


『監督が決まったからさ、悪いけど時間作れないかな？』


連絡が入ったのは今朝の事だった。