私と彼と――恋愛小説。

それにしてもジュンさんの事が気になってしまうのは仕方がないだろう。気に掛けない素振りをすると口数が減ってしまう。


杏奈から会長の事は聞いていた。会長とは名ばかりで、実質の最高権力者で今も大きな決断は彼の手にある。


『恐い人なのよねぇ。まあ、あたしには優しいんだけどね。それも結果出してるからだけどさ』


その男がジュンさんにあれだけ興味を示した。静かな車内でハンドルを握りながらジュンさんはポツリと呟いた。


「気になるわよね。やっぱり…」


「――ジュンちゃん」


ルームミラー越しに私を見て呟いたジュンさんを、何故だか佐久間が押し留める風に名前を呼ぶ。


「大した話じゃないわよ。前にね、ちょっと大きな会社で働いてたの。一身上の都合ってので辞めちゃったら…偶々その後で会社が傾いてさ、噂に尾ひれが付いて――私が抜けたのが原因とか…ね。まあ、そんな事言われた時期があっただけよ」


「そうなんですね…」


「そう、その程度の事よ。大袈裟なんだから、あの会長さんったら」


そう言って笑い飛ばすジュンさんを、助手席の佐久間は黙って見ていた。