私と彼と――恋愛小説。

何時迄も恭子と遊んでいる暇はない。原稿はそのうち読ませると約束して打合せを終えた。


佐久間の原稿を、今頃谷女史が読んでいる筈だ。文芸畑の彼女はどう感じているのだろうか。


「お帰り、加奈子。カヲルの方はどう?」


問いかけられて周りを見渡す。何人かの部員がデスクに向かって作業をしている。


谷女史を視線で促して打合せのブースへ移動した。


「とりあえず順調です。スポンサーとテレビ局廻りに付き合わされますけどね」


「テレビ局?」


「制作はテレビ局に任せるみたいです。で私はカヲルに化けて局の偉い人と脚本家に挨拶だとか…」


「まっ、それが一通り終わればお役御免って事だからさ」


「そうですね…。そう云えば原稿はどうでしたか?」


「安心した。三話とも携帯のと設定も被ってないし…女心鷲掴みだな。何気に悔しい…」


「編集長もですか?」


谷女史は苦笑いしながら呟く。


「加奈子もか」


「ええ…まあ。佐久間に会わずに読みたかったかも。やられた感が半端ないってとこです」