私と彼と――恋愛小説。

「どう云う意味?」


「まるで語り草みたいな話でさ。大阪の会社のCMで撮影も終わってからクライアントが難癖付けて値切ったらしいのよね」


「有りがちな話だねぇ」


「佐久間はさ…そのCM全部お蔵入りにしたらしい。掛かった経費もタレントのギャラも全部負担してね。大赤字だよね…それでも綺麗さっぱり手を引いたんだって」


「プライド…なのかな?」


「まあ、そうかもね。何せ佐久間は業界の流れすら無視して仕事してるからさ…」


「そうなの?」


「そりゃそうよ。CMにしたってさ普通プランナーなんて代理店の下請けじゃない。それをクライアントから直接受けてんだからねぇ。一人で下克上やってんだよね…」


「確かに…」


「だからね。なおのこと腑に落ちない…カヲルで儲ける気が無いって事がさ」


「恭子はどう思う?」


「わかんないよ、そんなのさ。天才の考える事は凡人に理解出来ないっての。まあ、じっくり探るわよ。佐久間もそうして欲しいみたいだし」


恭子に仕事を振ったのも案外その事に関係する気がした。