私と彼と――恋愛小説。

文芸部とは簡単な進行確認を行っただけだった。既に原稿は仕上がっている。編集の手で細かな部分に手が加えられている最中だ。


それすらも大した作業では無いと聞かされる。僅かな誤字修正程度の事で、それよりも表紙のイラストと帯のコメントを誰に依頼するかの方が大変だと笑っていた。


担当とのやり取りに聞き入っていた部長が口を挟んでくる。


「しかしなぁ…ある種の天才だぞ。このカヲルって…なあ、noxに載せる原稿も出来たら俺にも見せてくれよ」


「ええ、それはもちろんです。出来が良ければ出版の事も持ちかけてありますから」


「うん、まあそれは連載が終わった時に考えれば良いんだがな…個人的にも興味があるんだ」


「個人的な興味…ですか」


「そうだ。俺にはカヲルの正体など、どうでも良い。ただなぁ、携帯で書いてる文章と出版用に書き直した文章…これだけ書き分けられる奴に興味があるって事だ」


部長はニヤリと笑った。カヲルが何者でも良いと言った言葉の裏には、公表されている部分など最初から信じていないと云う事だ。


「分かりました。なるべく早くお持ちします」


そうなのだ――いつ迄もプロの彼らを騙す事など出来る筈はない。