私と彼と――恋愛小説。

「あー…参ったな。そうか……」


初めて見る佐久間の戸惑う表情だった。


「気にしないでください。カヲルの盛り上がりはnoxの勢いに繋がる筈ですから」


「それはそうだけど…本当に申し訳ない」


佐久間がテーブルに手をついて頭を下げる。


「さっ…佐久間さん！やめてくださいよ。本当に大丈夫ですから！」


何だか調子が狂う、周りを簡単に巻き込み自信に溢れている姿とギャップがありすぎる。


「お待たせしました。前菜です」


柔かな笑顔で料理長自ら皿を運ぶ。一瞬で佐久間の態度が変わる。


「陳さん、お忙しいのに無理しなくて良いですよ。構わず普通にしてくださいよ」


「最初だけですよ。愉しんでくださいね」


陽気で人当たりの良い佐久間がそこに居た。二人になると、また情けない表情を覗かせた。


「とにかく、加奈子ちゃんの負担が減る様に考える…すまない」


「もう、大袈裟ですよ。美味しそうだから食べませんか？」


できる限りの笑顔でそう告げてみる。その言葉に漸く少しだけほっとした笑顔を見せた。


なんだろう――まるで子供をあやしている気分だ。