私と彼と――恋愛小説。

渡された名刺を眺める…真っ白な紙面の中心に〈佐久間 涼〉とだけ書いてあるだけだった。


名刺の下には小さく携帯電話の番号とメールのアドレス。住所もなく彼の正体などわかる筈もない。


「あの、失礼かもしれませんが…佐久間さん。どんなお仕事を?」


「仕事…ねぇ。まあ、そんな事どうでも良いじゃない。で、どうすれば良いのさ?」


「どうすればって…もしかして書いて貰えるんですか!」


「加奈子ちゃんって変な子だよね。自分が何しに来たのか忘れてんじゃない?」


変な子…どう考えても歳下の男に言われるのも癪だけれど、書いてくれる事の方が嬉しかった。


「あっ!ありがとうございます!」


〈カヲル〉が男である事も、生意気である事も今はどうでも良かった。