私と彼と――恋愛小説。

恭子の事務所にはあらゆるジャンルに混じり、心理学の本が並ぶ。


『まあ、役にはたってるかな?大学でも受けてたしね』


『そうなんだ…凄いよね』


『そんなんじゃないわよ。例えばさ、相手の答えと同じ言葉をこちらも繰り返すの…どうなると思う?』


『どうって…なに?オウム返しみたいな事?』


『まあ、近いかな?それをね、続けると相手から私に信頼感が生まれるの』


『それでみんなあんなに話しちゃうの?』


『まあ、それだけじゃないけどね』


そんな会話を思い出した。恭子もやはりプロなのだ。


警戒しても仕方がない…諦めて一通り質問に答えた。


「さて…充分かな。加奈子に戻って良いわよ」


「何だか裸になるより恥ずかしいわよ…恭子に洗いざらい喋らされた気分…」


「まあまあ、とにかくこれで記事書けるわよ。誌面割りが決まったら文字数教えてね」


「ねえ、さっき佐久間さん何言ったの?」


恭子がいたずらっぽく笑う。


「大した事じゃないわよ。録音のダビング頼むだってさ」