私と彼と――恋愛小説。

「あのさ、見た目だけで選んだとか思ってんの?加奈子ちゃんさ、毎回アレに感想のコメントくれたじゃない。まあ、最初の方はありきたりな感想だったけどね」


愉快そうな表情はふっと真顔に戻る。


「すっかり共感してくれたでしょ?まあ、書いてるのが僕だとわかるまでの間だろうけど」


「だから…私だったんですか…」


「そうだよ。だから悪いけどダミーに選ばせて貰った、もちろん編集として担当者になって貰ったのもその為だよ」


「何だか加奈子…責任重大って事?」


「そうだよ。実際に姿を現すのは、映画のスポンサー廻りとか監督やキャストに会う時だけだけどね」


「監督やキャストなんて聞いてませんよ…無茶ですから」


「駄目だよ、谷さんには了解貰ったもん」


恭子が呆れて笑い出した。


「加奈子の負けだわ。谷サンの了解まで取られたら断れないわよね」


ドアがノックされてジュンさんが顔を覗かせた。


「涼ちゃん、準備オッケ。スタジオに先行くから早くね」