私と彼と――恋愛小説。

十分程した頃、扉の外から佐久間の声が聞こえた。外出するスタッフに指示を出している様子だった。


「とにかく本人捕まえて上手く交渉してよ。見た目に騙されるなよ、ああ見えてプライドの塊だからさ」


ドアが開き佐久間が謝りながら目の前に座る。


「申し訳ない。朝から色々あってね」


その割りに佐久間の表情は愉し気に見えた。余計な事には深入りしないと決めていた私と違い恭子は興味深そうだ。


「なんだか大変そうですね。何かあったんですか?」


佐久間は少し考えてから話出した。内緒だからと告げる事は忘れない。


「競合のプレゼンでうちが負けた案件があってさ…まあ、クライアントの担当と競合先が内々に話が出来てたみたい。どうしても使いたいタレントがいたんだね」


「出来レースだ」


「よくある話だよ。それがさ、そのタレントが不倫騒動。明日の週刊誌ですっぱ抜かれる」