私と彼と――恋愛小説。

「まあ、良いや。見せてよ」


「はい?何をでしょうか…」


若い男は呆れた表情で私を見る。


「あのさ、何をしに来たわけ?企画書だよ企画書」


生意気な男だった。私の中の〈カヲル〉のイメージとどうやっても結びつかない。


慌ててバッグを探り企画書を手渡した。


パラパラとページを捲る。ふざけた態度は見えなかった。


「F1の後半からF2の前半向けって感じか…また厳しいとこだな。広すぎるんじゃね?」


やはりこの男は業界の関係者だ。F1層とは女性の二十代から三十代半ば、F2層は三十代後半から四十代を指す言葉だ。


そう云えば、まだ名刺すら渡していない事に気が付いた。彼が何者なのかも名刺の交換でわかる筈だ。


「すいません〈カヲル〉さん。まだ名刺もお渡ししていませんでした」


慌てて名刺を差し出す私に、少し考えて胸ポケットから名刺入れを取り出した。


「正体をバラすのは初めてだな。まあ良いか、加奈子ちゃんの事気に入ったし」