私と彼と――恋愛小説。

携帯に出たのは佐久間ではなくジュンさんだった。すぐにパーテーションの横に在る小さなドアが開いてジュンさんが顔を出した。


「いらっしゃい、加奈子ちゃんと…」


「ライターの神戸です」


「佐久間のスタッフで大友です。宜しくね」


「ジュンさん、大友って言うんだね」


「アタシだって名字ぐらいあるわよ。でもジュンって呼んでね」


ジュンさんは笑いながら別のドアから打ち合せスペースらしい部屋へ向かう。


「ちょっと涼ちゃんバタバタしてるの、直ぐに来させるから待っててね」


恭子も私も一日空けてある。多少の事は構わない、ジュンさんにそう伝えた。


「それにしても結構なオフィスだよね。ワンフロアできっちり仕切りも作ってさ、個人のオフィスにしては豪勢よね」


確かにそうだ、事務所の音が漏れてくる事もない。シンプルだけれどもお洒落なテーブルと白い座り心地の良いソファー。何処となく佐久間の部屋に印象が似ている。