アスカさんにあんな事を言われたからなのかもしれない。
目の前にカイさんがいる事に疑問が浮かんでくる。

何でこの人は、私に構うんだろう。
何でこの人は、私に優しくするんだろうって。

カイさんが与えてくれる温もりは全部嘘偽りなく凄く心地がいいものなのに。
アスカさんに言われた言葉でそれらが何か黒いものに塗り替えれてしまう気がして凄く怖い。

恐怖はすぐ目の前まで迫ってる。
だから口に出したら終わる。もしカイさん本人に”真偽”を解いたら、聞きたくない答えが返ってくるかもしれない。
そんな答えなんて私はいらない。


「ハナ?」


そんな優しい声で呼びながら私の拳を大きな手で掴んできても、私は口を開かない。


「…か、カイさんは狡い」

「……」


狡いよ…。
その声に私が弱い事をカイさんは分かってる。
分かってて話させようとしてくる。

だけどカイさんは嗚咽交じりにそう言った私を更に追い詰めるように、長い足に挟まれてる私を優しく包み込んで隙間なく抱きしめた。


「…う、違うの、」

「……」


あまりの優しい温もりと、迫り来る真実に更に涙が溢れる。

今カイさんにして欲しいのはこういう事じゃなくて、何も言わずただ傍にいてくれるだけでいいのいに。
私がここでもし”アヤセ”って名前を口に出したら関係が終わるかもしれない。