だけどそうじゃない。
そうじゃなくて、今私の頭を占めてるのは”アヤセ”って人のこと。
聞いたことのないその人の疑問は私の中で消費することなく、疑問は増え続ける。
「ハナちゃん泣かせてんなよなぁ」
渋いヨシノさんの声ではじめて自分が泣いてることを自覚した。
なんで泣いてるのか自分でも分からない。
アスカさんに怒りをぶつけられたから?ヨシノさんが来て緊張の糸が解けたから?”アヤセ”って人に困惑してるから?
もうグチャグチャで分からない。
「ごめんな怖い思いさせたよな?こいつ普段こんなんじゃねぇんだよ?」
ヨシノさんの申し訳なさそうな声が頭上で聞こえるけど、泣いてる私は下を向いて顔を抑えて首を振る。
ヨシノさんに謝らせて迷惑までかけて本当は泣きたくなんかないのに。
だけど涙は私の気持ちとは裏腹に意味も分からず溢れてくるばかりで。
「カイ!!ちょっと来い!」
聞いたことのないヨシノさんの怒号に、すぐさまこっちに近づいてくる足跡が聞こえて。
お店のと家の仕切りのガラスドアが開いたと同時に、耳障りのいい声が届く。
「ハナ?」
困惑を浮かべる声のカイさんがサンダルを引っ掛けてこっちに降りてきたのが分かる。
私の側に立つなり「お前?」と発した。

