ブンベツ【完】



先輩は人との距離を詰めるのが上手かった。相手を不快にさせずに良い印象を与えるのが。
同級生でも同性にしか呼ばれない私の事を、恥かしげもなく呼んでいた。


『ハナちゃん』


と。

覚えやすい上に呼びやすい、という理由からだった。
あの頃は気にしなかったけど、今は違う。

それは他の人とは違うくて。サジさんやヨシノさんも同じように私をそう呼ぶし、アスカさんやカイさんも下の名前で呼ぶ。
けど麻生先輩のは、サジさんたちとは”違う”。

どちらかというと、カイさんに近い”それ”だ。
直接言われた訳じゃないけど、こういう状況になってる時点でもうそうだ。


『ね、近々食事でもどうかな?』

「あの、先輩、」

『カフェでお茶でも構わない』

「メールでもお話したようにこの話は、」

『言ったでしょ?メールじゃ覆せないから電話したって』

「電話でも覆りません」

『今直ぐじゃなくて良いんだ。食事に関しても。まずは”友達”として俺を受け入れて欲しい』

「先輩、」

『”友達”なら彼氏に負い目を感じる必要はないはずだよね?ハナちゃんは絶対的に俺と”友達”の関係が崩れないって思ってるなら』

「そういう話ではなくて、」

『ゆっくりで良いんだ。また連絡する』


…どうしよう、わりと手強いかもしれない。

頭痛がするのは世を明かした所為だと思いたいけど、今の電話を受けてちょっと食らったダメージは大きかった。