ドキっとした。それと同時にカイさんがここにいなかった事に安堵する自分がいる。
後ろめたいことなんてないけど余計なことを言いたくない。
『こんな朝方にごめん。5回コールして出なかったら諦めようと思ってたんだ』
電話ごしの数年ぶりの麻生先輩の声は前と変わらない雰囲気を連想させた。
誰とでも打ち解けられるスペック。
悪く言えば、相手の懐に入るのが上手なのかもしれない。
電話越しから申し訳ない感じが伝わってくるから「こんな時間に何ですか」なんて言えない。
『連絡するの遅れてごめん。無視してた訳じゃなくて、ただ俺がどんなに文字で粘っても状況を覆せないと思ったから電話しようと思った』
「………」
『すぐ連絡しなかったのは出張中だったって事と落ち着いて話がしたかったからなんだ。で、今さっき深夜バスで帰ってきて直ぐに連絡しようと思ってした』
「………」
『あ、もしかして起こしちゃった!?!?』
「ッふ、い、いえ、大丈夫です」
今更ながらの質問だなと思って思わず笑ってしまった。
そうだ、この人わりと天然だった。
『…今更だけど、俺の事覚えてる…?』
「はい、麻生先輩ですよね?委員会が一緒でした」
『よかったー。そんな話さなかったから忘れられてると思ってた』
「覚えてますよ」
部活にも入ってなかったから唯一繋がりがあった先輩だったから覚えてる。

