「…は?何言って、」

「シャワーを浴びるので出てって下さい」

「ハナ」

「私からはもう話はないので」

「おい、」


泣いてる顔なんて意地でも見せたくない。有無を言わさず脱衣場からカイさんを無理やり押し出して鍵を掛けた。


「ハナ!!!」


鍵のかかる扉をガチャガチャと音を立てながら苛立つカイさんの声がするけど、それを遮断する様にシャワーを頭から被った。

ここで涙なんて流し切ってしまえ。家にまで持ち帰って泣くくらいならここで全部流し切って終わらせてやる。

目を瞑ると瞼の裏に映るのはここでの出来事で、次々と走馬灯のように流れるそれすらも涙と一緒に捨ててしまいたい。


ブンベツをしよう。カイさんと過ごした日々をブンベツする。ここで起きたこと全ては他の記憶とブンベツをしてもう思い出さない。


なのにカイさんは簡単に私の邪魔をする。


「まだ話は終わってねぇぞ!!」


鍵を壊したのかすぐ後ろでくぐもった声を張り上げる。出て来いと言わんばかりに脱衣場と浴室を隔てるドアを叩く。


「別れるなんて許さねぇぞ」

「……」

「俺はあんたを縛り付けてでも離ない」

「……」

「………ハナ!!」

「……」

「あんたがいれば俺は何もいらないッ」

「……ッ」

「………好きなんだ」

「………ッッ」


次第にどんどん声は小さくなる。

聴こえるのはシャワーの水がタイルに叩きつける音で、必死に私は嗚咽を堪えるように奥歯を噛み締めた。