脱衣場で私を残してアスカさんは出て行った。どのくらいそこで泣いていたのかは分からない。人生初めての大恋愛の大失恋をすんなりと整理できるほど私は大人じゃなかったから。

何もかも初めてだった。

愛しいという気持ちも切なさも温もりも嫉妬で自分がおかしくなるなような気持ちも、全部カイさんがくれたもの。

好き。カイさんが大好き。
優しい声で私を呼ぶ声も大きな手や胸も、抱いてる時の果てる寸前の顔を歪める表情も全部大好き。


私も忘れるからカイさんも忘れてほしい。私との数ヶ月なんて記憶から削除して何でもなかったようにまた前の日々に戻ってほしい。


「ハナ…」


脱衣場に入ってきたカイさんはいつもの様に私の呼ぶ。
顔を抑えて泣く私をカイさんはもう一度「ハナ」と呼んだ。

やめて欲しい。そんな声で呼ばないで。
これ以上私を掻き乱さない欲しい。
私の我儘でカイさんを縛ることなんて出来ない。


「ハナ、」


だから私に残された選択肢はただ1つ。

喉元で詰まるそれを口にする覚悟はできた。



「……ーーー別れてください」




震える拳を抑えながら涙で歪んだ爪先を見て低頭した。