もう訳がわからなかった。最初っからグチャグチャで整理なんてできてなかったけど、起きた現実に頭が全然ついていかなくて。
私を捉えたアヤセさんがアスカさんを跳ね除け私に飛びかかって来た。向けられる目は狩をする獣に近いそれで本気で死に対する恐怖を覚えた。
突進された所為で私は尻餅をついてアヤセさんがそのまま馬乗りになる。拳を振り上げ言葉にならない奇声と拳をぶつけて来た。
怖くて怖くて私は只管顔を腕でガードして浴びせられる罵倒が耳を支配する。けど同じことを繰り返されるそれは奇声ではなかった。
『返せ』
彼女は何度も拳と一緒にそうぶつけて来た。
「あ"ぇえッ!!!あ"ぇえ"!!!かぁぃ”おあ"ぇえッッ!!!!!」
返せ 返せ カイを返せ
他の隙間から覗いたアヤセさんは真っ赤な目を腫らして泣きながら叫び続けて何度もそれを繰り返した。怒鳴りつけるアスカさんが必死に抑制しても彼女の怒りは止まらない。
けど男の力に敵うはずもなくアヤセさんはアスカさんの力によって引き剥がされて地面に抑え込まれた。
それでもまだ私に殺意を向け続けるアヤセさんは罵声を浴びせてくる。アスカさんにいい加減にしろって怒鳴られても眼中になく鋭い目で私を睨み続けてる。
そんな時だった。
「…………ッッぃさん」
雨の中から息を切らしながら会いたかった人が現れた。

