私の体を気を遣ってくれてるのは分かってる。けど今の優先順位は私の体調でも気持ち悪い靴下を脱ぐことでもない。
「何でカイさんいないんですか…?だって、朝から、電話、」
苦しい。凄い苦しい。私の思い通りにならない現実に嫌気がさしそうになる。ただ会うことさえままならない。
そんな私にアスカさんは端切れが悪い様子で口火を切った。
「今朝アヤセがいなくなった…」
アヤセさんが、いなくなった…?
「朝から皆手当たり次第片っ端から探しててカイくんも一緒に探してる」
だからテレビが付けっ放しだったんだ。テレビを消す時間や鍵をかける時間すら煩わしく感じるほど必死だったんだ。
周りが見えなくなるほどアヤセさんが心配で家を飛び出した、それが今日の答え。
「お前からの連絡を折り返したけど出ねぇからもしかしたら店にいるってカイくんが」
……本当はカイさんに来て欲しかった、なんて口が裂けても言えないけど。
でもそれが私の心の奥底の小さな本音だ。
「お前、」
爪先を見てじっと堪える私の頭上からアスカさんが何かを言おうとした時だった。
アスカさんのすぐ背後にある裏口のドアが物凄い勢いで開いた。
ドアノブが取れてしまうような力量で開いた勢いでドアが外の壁にぶち当たって劈く音に肩を震わせた。
ドアが開いたと同時に入ってくる冷たい空気。
それを背負う形で立ちはだかるのは、肩で息をする頭からつま先までびしょ濡れのアヤセさんだった。
視界が捉えたとほぼ同時。
雨が滴るキャラメルブラウンの前髪から鋭く私を睨みつける瞳が牙を剥いたのは。

