改札を飛び出してお店まで走った。降り出した雨の所為でワイシャツが肌に張り付いてきて気持ち悪い。走りづらいローファーは私の足の邪魔をしてくる。早く早く、カイさんに会いたいって気持ちが進んで足がもつれそうになりながら、体育の時間でもやらない全力疾走した。
お店に着くといつも開いてるシャッターが閉まってて裏口へ回る。今日は定休日じゃない。合鍵で開けようと捻るとガチャンと鍵がかかった。
鍵が開いてるってことは中にいるのかと思ったけど不安は消えない。恐る恐るドアを開けて踏み入れた。
「カイさん…?」
奥から返答はない。毎日来る場所なのになんだか違う所のような感じがして張り付くワイシャツの様に気持ち悪い感覚に襲われる。
泥棒でもないのに忍び足で廊下を歩き居間へ近づくとそこから人の会話が聞こえてくる。だけどそれはカイさんのものではなくテレビの音声だった。
テレビがつけっぱなしで卓袱台には乱雑に放置されるライターとまだ吸い始めだったと物語る長さの煙草が灰皿にボロボロに雑に押し付けられている。
分からない恐怖が心を蝕んでいく。人間は想像以上の事が起こると冷静ではいられなくなる。カイさんがここにいない。電話にも出ない。今までこんな事なかったのに。
暴れる心臓を抑えながら二階に上がってみるけどやはりいなくて、あるのは昨日そこで抱かれた布団だけ。昨日そこにいた私は確かに満たされていた筈なのに、今はこんなにも不安で仕方ない。

