図書館に着いて席で問題用紙を広げる私の隣でカイさんは「人間の心理」と書かれた本をじっと読んでいる。意外にもこんなに熱心に本を読む人だったなんて思わなかった。
定期的にめくられる紙の音が心地よくて耳を澄ませながらペンを動かす。勉強は嫌いじゃない。知恵を得るたびに私の中で財産が増えていくような気がするから。吸収した知恵を道具に限りなく何でも出来るような気分になる。
子供のような感覚と近いかもしれない。新しい何かを手にしたら何でも出来るんじゃないかという無垢な思いに似ている。おもちゃでも文房具でも靴でも新しいものを与えられれば、それは少しだけ世界が変わって見えるから。
それらが与えられるたびに、大事にしよう、そう思う。けどいつしか必ず壊れたり汚れたりするのは当たり前で、その時には既に興味や新鮮さを無くしていた。
今まで日常に存在していたものの一部になって興味は他へ向く。
その感覚がカイさんにもあるのだとしたら、私は捨てられてしまうんだろうか。もし捨てられてしまうんならポリ袋に入れてゴミ捨て場から環境センターに運ばれてどうせならスクラップにして燃やしてくれて構わない。
隣で黙々と難しそうな文字を綴るカイさんを閉じ込めてしまいたい。私を捨てたいなんて思う隙なんか与えず、全部私のものであればいいと本気で思う。

