泣きそうになる私にアスカさんはそれ以上何も言ってこなかった。
同情なのか哀れみなのか、将又どっちもなのか。
アスカさんはただ静かに「店まで送る」と言って帰路を歩き出した。
相変わらずタンクトップにビーサンのブレない姿のアスカさんの後ろをただ私は賢い犬のように後を歩く。
しつこい蝉の鳴き声に気怠そうに歩くビーサンの擦れる音だけの静かな散歩。
いい加減にしてよ、蝉も太陽もこのモヤモヤも。
あまりにも重すぎて苦しいです神様。
「ひっでー顔」
人生初の静かすぎる散歩は15分ほどで終わりを迎え、気づいたらお店の前。
送迎を終えたアスカさんは寄ってくんだと思っていたらこのまま帰るらしく、
「カイくんとヤって気分でも張らせ」
と油断も隙もあったもんじゃない言葉を残して来た道を帰って行った。
多分それは彼なりの優しさで、今日駅で待っていてくれたのも私を心配してきてくれたんだと思う。
なんだかんだ言って優しいアスカさんに感謝しながら何時ものように裏のドアから入ろうとした時、
「ーーーーざけんなよ!!いつまでも舐めたこと言ってんじゃねぇぞ!!!!」
耳を劈くような食器の割れる音と大きな物音と同時に聞こえた、聞いたことのないカイさんの怒号。

