カイさんとホテルなんて勿論初めてだ。
普段はいつもあの家だし、終電が9時に終わる田舎に『ラブホテル』というものに縁すらない。
けど別に場所がどうとか気にした事はなかった上に、わりとあの部屋好きだったりする。
だから突然のカイさんの気遣いに吃驚して言葉も出ない私の腕を引いて、慣れたようにカイさんは中に入っていく。
エレベーターでロビーに上がればなかなかお洒落なホテルで、「高級」というより「お洒落」とまとめた方がしっくりくる。
内観にぴったりマッチするインテリアが良い意味で気取ってなくて凄く気に入った。
「どうして急に?」
カードキーを差し込んでドアを開けようとするカイさんに聞いてみた。
差し込まれたカードに反応して直ぐ様鈍い金具の解除音を聞くと、何も言わないカイさんが私の腕を優しく引いて中へ誘った。
部屋に入った瞬間モアッとした熱気を感じて不快に思ったその時。
カイさんの大きな腕が背中に回って、一瞬で包み込まれる。
突然の行動に思考が止まったけど、温かな腕の中で居心地を感じた私はそっとカイさんの背中に腕を回した。
一定の鼓動を耳元で感じてもっと密着したくて抱きしめる腕に力を入れる。
それに応えるようにカイさんもギュッと力を入れた。
「せっかくの夏休みなのに家と店の往復じゃつまらないだろ?」
私の髪に顔を埋めて喋るからカイさんの吐息が耳元を掠める。

