車内では何も話さなかった。
左ポケットに入ってるそれが頭から離れなくて、何度も何度も「大丈夫」って自分に言い聞かせて不安を消してた。
そんな私に「どうした?」ってカイさんが聞いてきたけど「何でもない」って応えるとそれ以上は何も聞いてこなかった。
それが逆に有難くて安堵した。
車はどこに向かってるのか分からない。
来た道を多分戻ってる気がするけどここら辺に土地勘がないから、果たして帰ってるんだろうか。
けど、行く時の時間より車に乗ってる時間が多いのは気のせいじゃないと思い始めたのは、海を出て1時間くらい経った頃。
行きは1時間もかからなかった。
渋滞にもハマってないのにこんな大幅に到着時間が遅れるとは思えない。
「カイさん?どこに向かってるんですか?」
ハンドルを握るカイさんに聞いてみれば、突然車は左折して地下駐車場へと踏み入れた。
全然ここが何なのかわからないけど、一つ言えるのはここがあのお店でないということ。
カイさんの慣れた手つきで駐車するとエンジンを消した。
途端に静かになった車内に緊張感が走る。
「あの…ここは?」
「ホテル」
「え!?」
どうして急にホテル!?
た、確かにそういう事をするって分かってたけど何でわざわざホテルなんだろう!

