「はい…。それで今カイさん、ヨシノさんに伝えに行ってるんだと思います…」
けど言ってすぐ後悔した。
もしここで「何で?」とか「もっといればいいのに」とか言われたらどう回避したらいいか分からない。
私がここにいたらアスカさんやヨシノさんが気を使うだろうし、何より私が一番落ち着かない。
不安や劣等感を感じながら海を謳歌する人たちを見るなんて苦笑いしか出来ないもの。
だからどんな理由で回避するかバカみたいに必死に頭を廻らせてると、アヤセさんがノートに何かを書いてそれを破って私にぎゅっと握らせた。
紙を握らされた私の手をそのままギュッと両手で包み込んで来るアヤセさんに思わず狼狽える。
近い距離で大きな瞳が私を射抜いて「捨てるな」と言わんばかりの目指しで、うまく言えないけどなんだかそれに恐怖に近いものを感じた。
「睨まれてる」って言った方が近いかもしれない。
握られる手から呪いをかけられてる様な気分だった。
「ハナ?何してんだ?」
いつの間にか戻ってきたカイさんの声にハッとして、自分がまだ灼熱の外にいるんだって気づいた。
アヤセさんがいなくなっていつからここでぼーっとしてたのか分からないけど背中を伝う汗を感じて、そんな短い時間じゃなかったんだと悟る。
「……何でもないです」
カイさんに悟られないようにニッコリと笑い、手に残るそれをポケットにしまって車に乗り込んだ。

