波の音や色んな人の話し声や喋り声が遠くなって、自分が今どこにいるのかわからなくなった。
こんな真夏の中なのに背中に冷たいものが通って鳥肌が立ってる。
あぁ、一瞬で今までのものが崩れるってこういう事なんだ、とか悠長に考えながら”アヤセさん”っていう単語が耳の奥で残響して。
「ごめんなさいアヤセさんじゃないです」とか「初めまして、ハナです」とか、言わなきゃいけない事はたくさんあるのに、喉がカラカラで声が出てこない。
早く否定しなきゃならないのに喉元に詰まってそれは全然出てこない。
違うのに…。
私は”アヤセさん”じゃないのに…。
だって、今は、”アヤセさん”のカイさんじゃない…。
私の…、
「タモツ」
カイさんは私の…、
「サジくんがあっちで呼んでんよ」
「あ、了解っす」
私のものなのに…。
「悪く思わないでやってくれねぇか?わざとじゃねぇんだ」
俯いて口を閉ざす私にアスカさんの優しい声が降ってくる。
全部聞かれてたみたいだ。
視界に映るのは私の爪先とアスカさんの足。
こんな泣きそうになってる顔なんか上げたくない。
皆んな楽しそうな雰囲気なのに私が水を差して白けさせたくないのに。
「アヤセは俺やカイくん達より年上で、ヨシノくんの幼馴染みらしい」
「……」

