それからサジさんのお蕎麦屋さんに歩いて向かった。
意外にも歩いて行ける距離らしく、直様向かうことになって戸締りをして裏口から外に出ると一瞬で汗が吹き出てきた。
モワッとした不快な空気が全身を包み込み、アスファルトの先は蜃気楼がユラユラと見える。
「サジさんいるといいですね」
お蕎麦屋さんに着いたとしても目的であるサジさんがいなかったら、猛暑の中歩いた事が報われない。
「あそこの店が忙しいってのを聞いた事がねぇな」
「え、そうなんですか?」
あんなに美味しいお蕎麦なのにどうしてだろう。
本当に美味しいのに!
「そこの店主の親父が頑固ジジイなんだよ。おっかなくて変わり者意外近づかねぇらしい」
「怖い人なんですか?」
「泣く子も黙るってやつだな。いつも目がつり上がってて昔から鬼みてぇなジジイだ」
どうやら昔からの知り合いらしいその店主さんと、仲がいいのかもしれない。
鬼みたいな人っていうから一瞬脳裏に鬼の顔が浮かんで背筋がゾワッとしたけど、カイさんの知り合いならきっといい人に変わりはないんだろうと思った。

