「お願いします…。それしかないんです…お願いします」
「ハナ」
「カイさんに優しくされる筋合いなんて無いんです。私はあなたをたくさん傷つけてズタズタにしたから、だから私は、」
気持ちが急かすようにどんどん巻き舌になって「やれ」と目で訴える私をカイさんは私の左手首を掴んで私の背中の窓に押し付けた。
「それ以上言ったら本気でキレるぞ」
聞いた事のない腹の底から出すような声と野生の獣のような目で私を睨むカイさんは押し付ける腕にぎゅっと力を込める。
本気で怒ってるんだと眼力から伝わるその威力に私は何も言えなくなった。
口を閉ざすとカイさんは直様掴んでた手首を離して、脱力したように私の肩に額を乗せて耳元で囁いた。
「…もう忘れろ。嫌なこと全部忘れちまえ…」
色味を持つその吐息に背中がゾクゾクした。
優しく腰に腕を回され近いその距離に目が回りそう。
「ハナ」と呼ぶ声に胸がぎゅっと締め付けられて苦しい。
私にとって嫌なものは忘れていいと言う。
都合のいいものだけを取り除いて記憶を塗り替えろ、だなんて随分残酷な事を言うんだ。
カイさんは何も変わってない。
泥沼のような甘さを与えてくるこの人は、4年前と同じそのもので。
今も私をドロドロに甘やかそうとする。
「…なさい。……ごめん、なさい」
カイさんが忘れろって言っても、それでも私は、この4年を忘れるなんて出来ない。

