ブンベツ【完】



抱き抱えられたまま嗚咽が抑えることなんて忘れて両手で顔を覆い子供のように泣く私を、カイさんは何にも言わない。
「帰りたいです」と何度言ってもカイさんからの反応は無い。

私をどこかに連れて行くつもりなのか、お店を出て向かったのはパーキングエリア。
凍えるような寒さと共に肌に感じる冷たさに雪が降っているのだと悟った。
助手席に私を下ろし、手慣れたように車はどこかへ発信する。

車内に泣き啜る私の声とまだ暖房になってない風が響く。
今すぐ車から飛び降りてしまいたいけど手元に鞄が無いことに気づいて帰る道が途絶えたんだと絶望する。

階段で転んだ所為で鞄をあのお店に置き忘れた。
財布もコートも靴も全部あのお店で、それと同時にタクシーを拾うという手段も消え失せた。


「泣いても帰さないからな」


助手席で未だなく私にカイさんが言い放つ。
その言葉にまた更に涙が溢れる。

ブンベツ出来てきたらこんなにも胸を締め付けられることはなかったのかもしれない。
『過去』のことだと綺麗に割り切れてたらきっとこんな事にはならなかったと思う。
心がズタズタになろうがはち切れようが、それで良かった。

どこかの隙間に穴が開いていようが見て見ぬ振りをして、舞い込む出会いを受け入れていればきっと違ってた。
短大に入って告白される事もあった。遊びの誘いも受けた。