ブンベツ【完】



たとえ話の趣旨が見えなくて困っても、生徒に知恵を与える立場にいる私は彼の尻を叩かなきゃならない。


「…うん、そっか。じゃあ勉強、」

「”コクる”って”うわぁ〜口の水分持ってかれるわぁ〜”ってな意味なんだと。スンが言ってた」

「…やろうかツララくん」

「だからハナちゃんも食べてみて!めっちゃ”コクる”から!」

「……」


教師も楽な仕事じゃない。


結局それからツララくんは筆箱からシャーペンを出すどころか鞄に入ってたマフラーを首に巻く始末で、どうにも今日は無理だと判断した私は明日倍に今日の分をやらせる事にした。
チャイムが鳴ると待ってましたと言わんばかりに俊敏に立って、「ハナちゃんクリーム玄米ブラン忘れんなよ!」と釘をさして嵐の如く教室を出て行った。

学校を出るのはいつも7時ぐらいで、バスに乗って電車に乗り換える。
車を持ってれば楽なんだろうけど免許すら持ってないから気が遠くなる話だ。

あ、シャンプー買わなきゃ。

バスターミナルを出て駅に向かう途中にあるマツキヨに立ち寄った。
お馴染みのシャンプーを手に取り会計を済ませて駅に向かう。
お店を出るとちょうど横断歩道が青になって一周んで人がごった返すそこに私も急いで飛び込んだ。

雑踏に飲まれたその瞬間、



「ーーーーなぁ、ちょっと待て!」