バスの扉が閉まり、再び発車する。





「今まで付き合った子の中に面白い子はいなかったからね」

「知らん」

「……ね、ちゃんと決めておこうか」

「は?」





楽しそうに笑うヘラ男。


なにがそんなに楽しいのか分からない。





「夏休み明けに、どちらかが好きになったら恋人続行。2人とも好きにならなかったら別れる、ってことでいいね?」

「………ん?」




あれ?


なんか違うよね。





「私がヘラ男のこと好きになったら続行じゃなかった?」

「えー、そうだっけ?」

「そうだよ。ヘラ男が私のこと好きになった時のことなんて聞いてない」

「だから今決めたんだよ」




こいつ……。


綺麗な顔してやることが卑怯だな。


もう怒りなんてないよ。ただ落胆するだけだっつの。




「…反応それだけ?」

「なにが」

「うっわ、私のこと好きになんのかよマジキモい!…とか言わないの?」

「それ私のマネのつもりか?似てないわ」



目をパチクリしながら聞くヘラ男に呆れる私。





「言ってほしいの?ヘラ男はMとインプットしていいわけね」

「ヘラ男って名前定着してるんだね…もういいけど。Mじゃないよ。どちらかというと好きな子はイジめたくなる」





なんか、こいつのカノジョになるやつは可哀想だな。


私は2ヶ月後もこいつのことを好きにならない自信はあるし、こいつも私のことを本気で好きにならないだろう。


こんなにも毒を吐かれ、否定されて拒否されているのに好きになる理由が分からないしね。





「あ、ここで降りるよ」





そう言われて素直に降りる準備をする私に、ヘラ男が微笑んでいたことを私は知らない。