Voice-君の声をもう一度-

病院はイヤ。

大嫌い。あの時からずっと。

だって、あそこは――……。

記憶のずっと奥深く。頑丈な鍵をかけて箱に閉じ込めた、嫌な記憶。

それは、まるでそこから出たいと望むように、その箱を微かに揺らす。

嫌だ。ダメ。

私は抗うように激しく首を振り、縋るようにお姉ちゃんを見上げると、彼女は一瞬ひるんだように息を飲み、そしてゆっくりと息をはいた。




「……しょうがないわね。でも、もしもこれからも続くようなら、問答無用で連れて行くからね? いい?」





はーい。

力なく項垂れて肩腕だけをあげて分かった、という意を伝えるとお姉ちゃんは満足したように頷く。

……これからもし頭痛が起きたら全力で堪えてやる。

そんな密かな決意を抱き、私はすくりと立ち上がる。幸い、お姉ちゃんと話しているうちに頭痛と吐き気はおさまった。

充電しておいたスマホを手に取り、私は慣れた手つきで文字を打つ。




『おはよう。お姉ちゃん。今日の朝ごはんは何?』

「今日はねぇ、和食よ。和食」

『え。何で!?』



朝は忙しいからっていつも洋食なのに。

目を丸くする私に、何故かお姉ちゃんはフフンと勝ち誇ったように微笑み、ピンッと人差し指をたてる。



「今日はお姉ちゃん大学が休みなの。だから奮発しちゃった」



え。休み?

どうして? 今日平日だよ?

文字を打つことも忘れて首をかしげると、お姉ちゃんはおもむろに立ち上がりカーテンを開ける。

多分、もし声が出ていたなら私はきっと声をあげていただろう。

驚きで目をぱちくりさせる私に、お姉ちゃんは嬉しそうに頬を染める。




「何か、今日台風並みの豪雨と暴風で電車とか止まっちゃってるらしくて」

『……それ、私も学校行けないじゃん。何で起こしたの。お姉ちゃん』

「だって! 早く起こさないとせっかく張り切って作ったご飯が冷めちゃうじゃない!!』



あ、うん。そうだね。

ぐいっと顔を近づけられ、私は思わずのけ反る。

分かったから、という意を込めて顔の前で両掌をお姉ちゃんに向けるような形にしてコクコク頷くと、お姉ちゃんは分かってくれたのか身体を離し、私の手を引っ張って行く。



「じゃあ、早く下りてご飯を食べましょ。お姉ちゃんもう、お腹すいちゃった」




え。お姉ちゃんご飯食べてないの?