白一色の部屋に、無機質に響く機械音。

私の身体にいっぱい繋がれた機械たちが奏でる音はもう聞きなれたもので、心地よささえ感じてくる。

混濁する意識の中で、ぼんやりと虚空を見つめながら私はゆっくりと視線だけを動かした。




「空っ!! しっかりしろ!」




ああ。こんなに取りみだした悠斗、初めて見たかもしれない。

私の手をしっかり握りしめて、涙の滲む瞳を見つめながら私はふっと微笑む。

大好きな心地よい声が私の名前を紡ぐ度、嬉しくて嬉しくて仕方なくて、嗚呼。やっぱり大好きだなぁって実感した。

好き。大好き。愛してる。

伝えたい言葉はたくさんあるのに、自由の利かなくなった私の身体で思いを伝えるのは不可能で。

私は彼をじっと見つめると、声なき声を発する。

口を動かしても、私の言葉は空気となって消えていく。それでも――。

伝えたい。私の言葉を。感謝の気持ちを。





「空?」

「……、…………ぃ」

「空!?」

「……る……と、あい……る」

「――っ」

「はる……っ、愛……て、る」




――ねぇ。神様?

あなたは本当によくわからない人ですね。

私の声を奪い、命を奪い。後は死にゆくだけの私に、悠斗という希望を差し向けて。

神様。私はあなたのことが大嫌いです。とても残酷で、大事なものを簡単に奪って言ったあなたが。

あなたにお礼なんて死んでも言いたくないって思ってたけど、やっぱり気が変わりました。

ありがとうございます。私と悠斗を出会わせてくれて。

人を愛すると言うことを教えてくれて。

……私の声を、返してくれて。

目の前にいるはずの、愛しい人の姿がぼやける。

嗚呼。もう時間なのか後もう少し、話していたかったな。

今にも泣き出しそうな悠斗の頬に、懸命に持ち上げた手を滑らせる。




「愛……し、てる……。あり……と」

「オレも、愛してるよ。空」




泣き笑いにも似た微笑を浮かべた彼は、私に優しいキスを落とす。

さようなら。愛しい人。

どうか、幸せに――……。

激しい眠気に襲われて、私はそのまま意識を手放した。