【簪の持ち主です
拾って頂き有難う御座いました
大切な物でしたので、
本当に感謝しています。】

それだけ書いて便箋に入れ封をした

そしてまた、家の近くの神社まで
手紙を運んだ











「ふぅー...」

長いようで短いような
始業式が終わった

俺はちゃんと
簪を受け取ってくれているか気になり
学校を終えすぐ神社へと足を運んだ











そこにはもう簪も紙も無かった
代わりに、
綺麗な桜の便箋が置かれていた

「手紙?」

中を開くとメッセージが

【簪の持ち主です
拾って頂き有難う御座いました
大切な物でしたので、
本当に感謝しています。】

随分と律儀だなと思った

これは、
また返事を書くべきなのか?
それとも
もう終わらせるのか?

頭を悩ませていると
人の足音が近づいてきた

もしかして、簪の持ち主?

考える暇も無く
神社の中に人が入ってきた

「ぁ...」

俺と目が合ってすぐ目を反らし
神社から出ようとした女の子

「待って!」

咄嗟に呼び止めてしまった

俺の声に反応し
ピタリと止まった女の子

「あの、簪の...持ち主さん?」

「は...はい...」

少し、怯えたようにこちらを見つめた

「えっと、返事有難う御座います
ちゃんと戻せて安心しました」

「いえ、こちらこそ有難う御座いました」

深く丁寧にお辞儀をしてくれた

「いや全然...」

正直、これ以上何を言っていいか
分からない!

「あ、の...」

「はい...?」

「桜、綺麗ですね」

何言ってんだろう俺...
訳の分からない自分に心底嫌気がさした

「はい!此処の桜は、
とても美しく咲いてくれるんです」

微笑みながらそう言ってくれた

「此処の神社、よく来るんですか?」

「はい、家が近くなので」

「そうなんですか、俺も結構近くです」

「私の、大切な場所なんです」

「大切?」

「此処に居ると...落ち着きます」

その時少し俯いた彼女を見て
あの時の独り言を思い出した

『1人は、辛い?』

あれは、どういう意味なんだろう

「あの、」

問いかけようと顔を見つめたら
彼女は熱心に何かを祈っていた

「...なんですか?」

顔を此方に向けてまた微笑んだ

「いや、なんでもないです」

その時俺は、聞けなかった

彼女の微笑みを崩してしまう
そんな気がした...