「輝こそ、この時間は早すぎるんじゃないか?何時も遅刻ギリギリのくせに」
「何時もじゃねぇよ。まぁ全然とは言わねぇが、遅刻はしてねぇからいいんだよ」
2人の前方に電車が到着。
扉が開くが下車する者は誰も居ない。
「で、遅刻ギリギリの輝くんはどうしてこんな時間に?呼び出しでもくらったのか?」
「いんや、訳はほら、彼奴だよ」
人気の無い車両に乗車し振り返る輝は何者かを顎で示す。
其処には電車目掛け猛ダッシュで駆けて来る少女の姿が。
「っ……ま、 間に合った……」
駆け込み乗車で何とか乗り過ごす事を免れた少女、藤咲 夏希(フジサキ ナツキ)。
乱れたモカブラウンの長髪を手櫛で整える色白の彼女は2人の同級生であり、輝の彼女でもある。
荒い息を整える夏希は腹を抱えてケラケラと笑う輝を見上げ鋭く睨む。
「何で置いて行くのよ……有り得ない…本っ当信じらんない……」
「ハハッ悪い悪い。間に合いそうに無かったからお前の為に電車を止めておいてやろうと思ってさ」
「止める気なんて全然無かったくせに。こっちは必死なのに楽しそうに見てたの知ってるんだから」
腹を立てる夏希は輝を小突くと空いている席へと足を進めた。

