先生の個人レッスンがはじまって、一週間。

テスト期間で部活がないので、放課後毎日ここにくる。
選択教室11

私たちの場所。
なーんて勝手に思っちゃったりして。

不意打ちでどきっとすることを言われたりして、ぼーっとそのことを思い出す時間が長くなっていた。

「西野はここが苦手だからなぁ…」

う…宇宙分野…

「だって…べつに宇宙飛行士になるわけじゃないし!!」

やっと、なんとかいつもの調子で話せるようになった、かな?

ベテルギウス。シリウス。
夏の大三角形。

その全部から、目を背けたくなる。

「俺は昔、宇宙飛行士になりたかったけどな?」

「えっ…?なんでならなかったんですか?」

「数学が、だめで。」

先生はそれっきり、何も言わなかった。
私もなんて答えていいのかわからずに、ただ黙っていた。

宇宙飛行士、か…

私が宇宙飛行士を目指すっていったら、先生はなんていうだろう…
きっと、喜んでくれるよね…?

数学は、わりと得意なほうだから、あとは…
机の上のプリントに目を落とす。

宇宙飛行士。

ああ…
幼稚園の頃の思い出が、フラッシュバックする。

「あゆみもつきにいってみたい!!」

宇宙飛行士の絵本を読んでもらって、わたしは宇宙に引き込まれた。

七夕の短冊に、『うちゅうひこうしになれますように』ってかいた。宇宙の図鑑を買ってもらった。

星の名前を覚えるのが大好きだった。

いっぱいお手伝いを頑張って、クリスマスにはサンタさんに天体望遠鏡をもらった。

毎晩毎晩飽きずに星を見つめていた。

いつか私もあそこに行く!!
本気でそう思ってたんだ。

そして、私は小学生になった。
宇宙への憧れはますます加速していて、自己紹介カードにも、七夕の短冊にも、ランドセルにつける名札にも、私の夢を書いた。

いつか宇宙にいきたい。
そんな願いは、一夜にして崩れ落ちた。

小学2年生の夏。
課外学習でプラネタリウムにいった。

私は何回かいっていたけど、楽しみで仕方がなかった。

案内の係りの優しそうなおじさんが、話をしてくれた。

「私も昔は、宇宙に行ってみたかったんだよ」

「はい、はーい!私も行きたいんだ!宇宙飛行士になるんだ!」

私、手を挙げて無邪気にさけんだ。

「なにをいっているんだ?女の子が宇宙飛行士?なれるわけない。」

とたんに、優しそうだったおじさんの顔が、こわくなった。

「え…?」

「バカにするな!宇宙にいきたい?どうせ無理だ。頑張ったって無駄だよ」

おじさんがどうしてそんなことをいうのか、私にはわからなかった。

「…なんで?頑張って勉強すればなれるってお母さんが…」

小さな声で、うったえる。

「私もしたさ。でもなれなかった。
人生なんてそんなもんさ。」

おじさんのこわい顔がふっと悲しげに変わった。
幼い私には、本当につらい思い出だった。