「しつれいします…」
選択教室11。
先生と二人きり。
だめだ、どうしようもなく落ち着かない…
「ああ、西野!
遅かったじゃん」
先生はべつに、チャラいわけじゃないけど…
こういう話し方も、好きだ。とか思っちゃう私。
「すいませんっ」
他の先生になら、もっと言える。
会話を広げたりもできる。
言い訳もできる…
でも、上山先生だから…っ
「いいよ、べつに。さ、座って?」
先生の隣のいすか、前のいすか…
どっちに座ればいいの??
教えてもらうんだから、となり??
いやいや、なんかアピールしてるみたいじゃん。
じゃあ、向かい側?
顔をあげただけで、先生と目が合っちゃう…
ここは斜め前の席だ!!
「ここ、ここ。ここにこなきゃ教えらんないだろ」
斜め前のいすに手を伸ばしかけた瞬間、先生はとなりのいすをぽんぽん、とたたいた。
となり…
うう、緊張する…っ
「はい…っ」
慌てすぎて、いすをひくのに手間取ってたら先生がひいてくれた。
優しい。優しいです先生…
「すいません」
「さっきからすいませんとはいしか言ってなくない?」
先生は笑って言った。
「だって…」
恥ずかしい…なんて言えないから。
そこで言葉を切る。
心の中では一番の言い訳。
「好きだから。」決まってる。
「まあいいや。ほら、やろ?」
私はルースリーフに名前を書いた。
『西野愛弓』
「にーしーの、あゆみ」
先生はのぞきこんで、私の名前を読み上げる。
やばい、ヤバイって先生。
それはだめ!
「前から思ってたけど、愛弓って、いい名前だよな」
どきっ
不意打ち。
こんなんで心臓もつのかな…?
真面目に心配。
「わ、私の名前、知ってたんですね」
冗談のつもりで、言ってみた
「もちろん。大切な生徒だからな。」
わかってる。
生徒、私は先生にとって生徒なんだ。
ほかの友達とか、先輩とかと同じ生徒なんだって…
別に何かを期待してたわけじゃない。
期待できる立場でもない。。。
はぁ…
私は無意識に、ため息をついた。
プリントを用意していた先生の手がとまったのが、視界の端にうつった。
「愛弓、ため息つくと幸せが逃げるぞ?」
愛弓…!?
い、いま名前で呼んだ…っ
「名前…っ」
ああもう…
絶対顔真っ赤だ…
「ああ、ごめん!いい名前だなって思ってたらつい。」
つい、じゃないよ!!
「やだった?」
う。なんかかわいい。
かっこいいな、って思って先生の、かわいい一面。
これはレアだな…
って。
私何考えてるの!?
「や、じゃないから特別に…呼んでもいいです。」
先生の目を見ながらもっとどうどうと話す予定だったんだけどな…
なかなか上手くいかない…
「面白いな、おまえ」
先生は笑って、また私の頭をぽんぽん、ってする。
もぅ…ただでさえ恥ずかしいんだから!


