ぱさっ

紙が落ちたようなやわらかい音がして、ふりかえる。

「あっこんにちは!」

上山拓也先生。私の理科の担当で、なんとなく気になっていた先生でもある。

私の直立不動な挨拶に気にすることもなく、落ちた紙を拾い上げた。

「おつかれ」

きゅんっ…

突然。突然だった。
私の頭は一瞬にして、この人でいっぱいになった。

たぶん、顔も名前も覚えられてない。
なのに…なのに…

先生は一瞬、私の目を見つめてから歩き出した。

なんだろう、この気持ち…
おつかれ、だなんて…言ってくれる先生はいなかったから、ただびっくりしただけで…っ

私の中で生まれた、「恋しちゃった」っていう可能性から、逃げたくて。

頭の中が先生でいっぱいになるのは、「恋しちゃった」せいじゃないって。

ああわかんないよ…
こんな気持ち、初めて。