「女スパイ、やっぱ足音立てないな」

「怖ぇ〜」


小声で言ってるつもりでも聞こえてる。


スパイの《パ》の音はけっこう響くのだ。


「やべっ。睨まれた!」

後ろを歩いていた男子は、あたしと目が合うと焦ったようにすぐに目をそらした。


睨んでないのに…

ただ振り返っただけなのに。


「お前、明日ぐらいに暗殺されるな」

隣を歩いていたもう1人の男子が、楽しそうに笑う。


暗殺って。


ゴキブリ一匹すら殺せないあたしに暗殺なんてできるわけない。


もしできてたら、今頃、ぴっちぴちのレザーのつなぎ姿で

「明日と言わずに今日中にでも行ってあげるわ」

とかセクシーに耳元で囁いて、もっと楽しませてあげてるとこだ。


スタイル良くないから、きっとしないだろうけど。


それ以前にまず、目立ちたくないし。


だいたいスパイって暗殺もするの?

今度調べてみよう。


あたしはすぐにポケットからメモ帳を取り出して、『スパイ調べる』と書いておいた。


忘れっぽいから、すぐにメモを取ることにしてるのだ。

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