すると、玄関のチャイムが勢い良く鳴らされたのと同時に、ガタガタと慌ただしく人がなだれ込むように入って来て、
「お嬢ーーーーー‼︎
なにしてんだよ!遅刻すんぞ!」
と大声を出してきた。
誉がさりげなく、彩を背後に隠す。
麦は、完全にそちらを無視して、背を向け、両耳を手で塞いでいる。
「なっ、なんだよ!この空気!
俺をずっと待たしといて! お嬢!」
「あーー!うるさい!
少しぐらい待ってらんないの!
地声もでかいくせに、更に大声出して、恥ずかしい!」
麦は男の方をイヤイヤ向き直り、怒る。
「お嬢の心配すんのは、執事として当たり前の事だろ。
お嬢を大切に、そりゃもう大切に思って…」
「うざい!」
スパンっと麦にきられ、麦の執事、坂上 達郎は、よよよ…と大袈裟によろける。
達郎はスーツこそ、誉と同様、質の良いものを着ていたが、髪は茶色く、オールバックにしている。
執事というよりは、どこぞのヤンキーだ…。
「…そんな、つれないお嬢も素敵だぜ」

