(うっ…美味しい…)
誉が作ってくれたサンドウィッチ、コーンスープ、サラダの朝食は文句の付け所がない美味しさだった。
レストランのオーナーでもある康介を唸らせただけはある。
ふと、美味い!と顔を綻ばせた父を思い出した。
(…私の時もそう言ってくれてたけど、この味には負けちゃうよ…)
彩はなんだか胸の辺りが、もやもやするのを感じた…。
(………?)
彩は朝食を食べている横で、食後の紅茶を入れている誉を盗み見た。
歳は、20代前半ぐらいだろうか。
身長は180cmぐらいはありそうで、仕立ての良い黒スーツを完璧なまでに着こなし、涼やかな目元が印象的だ。
いわゆるイケメンといっていいだろう。
紅茶の入れ方も気品があって、無駄な動作がなく美しく、やはり見惚れてしまう…。
彼には隙が全くないように、思う。
それ程までに、完璧なのだ。
(こんな人、見たことない…)
彩の視線に気づいたのか、誉が目を合わせて、微笑んだ。
この笑顔を見ると、なぜか警戒心が薄れる。
彩の胸が、どきん…と高鳴った。
「私の顔に、何かついていますか?」
「え⁈ あ、いや、大丈夫です…」
ふふ と誉は笑い、彩の前に淹れたての紅茶を置く。
「今朝は、ダージリンにしました。
茶葉も、私おすすめのものを使用しています。
お嬢様のお口に合うと良いのですが」
「い、いただきます」
彩はドキドキしたまま、紅茶を飲む。
カップを口につけると、すぐに鼻に紅茶の良い香りが広がった。
味も格別に…
「美味しい…」
彩は、思わず感嘆の声を上げてしまった。
紅茶は好きで、色んな所で飲んだが、誉が淹れてくれた紅茶は格別に美味しかった。
彩の反応を見て、誉はホッと息をついた。
「お口に合ったようで、良かったです」
そう言うと、居住まいを正して、彩にお辞儀をする。
「ご挨拶が遅れました。
高津 誉と申します。
高月女子高等学校の執事室から派遣されました。
今日から、お嬢様のお世話をさせて頂きます。
宜しくお願いいたします」
彩も、慌ててカップを置いて立ち上がり、勢いよく頭を下げる。
「は、はい!
こちらこそ、よろしくお願いします!」
誉は彩の肩に触れ、身体を起こさせる。
「お嬢様。
私に敬語など必要ありません。
お辞儀など、勿体無いです。
でも…」
誉はすっと体制を低くして、彩の片手をとって、微笑んだ。
「お嬢様は、お優しいんですね。
ありがとうございます」
どくん…
心臓がまた高鳴った…
今度は痛いくらいに…

