―――― 警戒 ――――





それから数日。
私は、注意深く黒谷との距離を置き、観察をしていた。

もし、彼女が力ある者だとしたら。
そう仮定し、考えを読まれないよう。
力をこじ開けられないよう。
バリアーを張っていた。

泉へ一度力を使ってから、こんな風にまた能力を使う事になるなんて、思いもしない事だった。
あれ以来、黒谷の鋭い視線が刺さるたびに、何度心を読もうと思ったことか。

あの、眼の中にあるだろう憎念を思う。
きっと、彼女の心の中は、真っ黒な渦がブラックホールのように蠢いているはず。
そんな渦の中へ、私を引きずり込もうと狙っているに違いない。

けれど、学校内でぶつかり合うのは得策じゃない。
お祖母ちゃんが昔言っていた。
未熟な者同士の力がもしもぶつかったなら、抑え切れない波動に周囲まで巻き込むことになるだろうと。

何故、そんなこと知ってるの?

幼い私が問い返すと。
昔、お祖父ちゃん(曽曽祖父)の言ってる事に納得ができなくて、力で喧嘩を売ったことがあるらしい。
その時に、自分だけ散々な目にあったのだと苦笑いを浮かべていた。

それを記憶していた私は、彼女と距離をとるように心がけていた。

なのに、黒谷は私へと近づいてこようとする。
その行動は、まるで私のもつ力を試されてでもいるように感じた。

黒谷の私を刺す視線は、以前以上に鋭く。
因縁めいた事をいってくる回数も増えていた。
嫌がらせめいたことも、少しずつエスカレートしていた。
わざとらしくぶつかってくる事もしばしばで、すれ違いざまのそれに私は特に警戒心を抱いていた。

もしかしたら、こうやってぶつかる事から心を読もうとしているのかもしれないと。

考え過ぎかもしれないが、警戒するに越した事はない。
泉のように、のほほんとしたところのない黒谷に注意を払う毎日が続く。

力ある者と断定できない彼女に、ここまで注意を払う必要があるのか。
そう問うも、油断はできない。

おかげで、少しずつ神経が磨り減っていく。
力同士をぶつけ合ったわけじゃないけれど、精神的な疲れが蓄積されていった。