―――― 気遣い ――――
家に戻れば、詩織さん……じゃなくて。
お母さんが夕飯の準備をしていた。
私は、空のお弁当箱を手にキッチンへと行く。
「お弁当、美味しかったよ。ありがとう」
「よかった」
お母さんが、ほっとしたような笑顔を向ける。
「何か、手伝う?」
野菜をリズミカルに刻んでいるのを見ながら訊ねると、大丈夫よ。と笑顔で返された。
「じゃあ、お弁当箱、洗っちゃうね」
「ありがとう」
お母さんの隣に並び、蛇口をひねる。
陸は、帰る早々リビングのソファにドカリと座って寛いでいる。
その背中に声を掛けた。
「陸のも貸して。一緒に洗っちゃうから」
その呼びかけに振り向き、少しだるそうに立ち上がると、空のお弁当箱をこれまただるそうに手に持った。
家に帰ると、何故だか陸はあの無愛想な感じになってしまう。
「よろしく」
素っ気無く言って、空のお弁当箱をシンクの上に置くと、リビングを出て行ってしまった。
私と二人の時は、どちらかと言えば愛想が良いのに、家に帰った途端とっても無愛想。
どうしてなんだろ?
そんな風に思っていたら。
「ごめんね。陸、無愛想で。ここの所、ずっとあんな感じで……」
息子の愛想のなさに、お母さんは眉根を下げた。
「そんなことないで……よ」
思わず出た、他人行儀な敬語をやめようとしたら、なんだか変になっちゃった。
お母さんもそれに気づいたのか、少し笑っている。